第6章 WC開幕〜Ready Fight!〜
彼を呼んですぐそばへ駆け寄った。高尾君はちょっと驚いたような顔をしていた。
「…夏美ちゃんか、こんなとこまでなにしにきたの…?」
いつもの彼とは違う棘のある口調だった。けど、それは試合に負けて気が立ってるからだとこの時私は思ってた。
「何しにって、なかなか戻ってこなかったからここまで来たんじゃない!皆、もう帰っちゃったし、そろそろ行こ?」
そう言って彼の腕を引っ張ろうとすると、高尾君は私の手を払い除けた。
「…あのさ、悪りいんだけど、帰ってくんね?今、お前と話したら、当たりそうだわ。」
あの明るい高尾君から発したとは思えない言葉に私はびっくりするけど、このまま帰ってもしょうがないから私は引き下がらなかった。
「いや。じゃあ高尾君が落ち着くまでここにいる!」
そう言うと高尾君はさらに目を鋭くさせて、冷たく痛い視線を私に向けた。
「…あっそ。言いたかった事あるし、ちょうどいいわ。」
「な、何?」
冷たい視線をキープして、どすの効いた声で言ってくる。
「お前さ、予選から誠凛の心配してただろ?」
嘘、ばれてたの!?どうして!?
…そうだ、高尾君には鷹の目があるし、しかも他人の気持ちに敏感で察するのが得意だったこと、忘れてた…!
ここで嘘をついても仕方ないと思った私だけど、認めたくなくて沈黙する。そんな私を高尾君は相変わらず冷たく見つめる。
「…ねえ、どーして何も言わねーの?図星?」
高尾君の視線と声が怖くて、何も言えない。そうだと察した高尾君は黙る私に構わず言い放つ。
「…何も言わねーってことはやっぱりそうなんだろ?言い訳しなかったところは褒めてやるぜ。」
もう、ここまで来たら謝るしかないと思った私は頭を下げる。
「…ご、ごめんなさい!そうよ、高尾君の言うとおり、ずっと誠凛の事、お兄ちゃんの事を秀徳より心配してたのは、紛れもない、事実よ…!」
涙が溢れてすすり泣くといつも頭を撫でてくれた高尾君だけど、当然の如くこの時は私を冷たく見つめているだけだった。