第6章 WC開幕〜Ready Fight!〜
「待って、夏美。帰りは予定ある?」
「え、ないけど…?」
「そっか、じゃあ今日は一緒に帰らないか?」
「え、お兄ちゃん、陽泉の人達とホテル泊まってるんじゃ?」
「1日くらいどうってことないさ。後で監督とキャプテンに断っておくし。」
「お兄ちゃんがいいなら私はいいんだけど…。」
「じゃあ、決まりだな。正門で俺は待ってるよ。」
「うん!わかった!じゃあ、待っててね!」
最初はお兄ちゃんの人間関係が大丈夫かと思って渋ったけど、内心は誘ってくれて嬉しかった。まあ、お兄ちゃんだし、上手くやるでしょ!そして、まだ話足りない事もあるのでちょうどよかった。
私は心をウキウキさせて集合場所の控え室へと急ぐ。着いたら時間ギリギリでちょっと宮地さんに怒られちゃったけど。でも高尾君がすかさずフォローを入れてくれた。
「おっかえりー!宮地さんも夏美ちゃんが可愛くて心配だから言ってんだよ、ね、宮地さん?」
高尾君がおちゃらけて私と宮地さんに言うと、彼は顔を赤くさせて声を荒げた。
「な、また適当な事言ってんじゃねーよ!しばくぞ!」
そして高尾君はげんこつを食らわされ、文句を言うものの、いつもの光景なので皆笑って見守るだけに終わる。
私はこっそりと高尾君に耳打ちしてお礼を言う。だけどなぜか高尾君は赤面してその場で倒れてしまった。
ーーやっと落ち着いたところで、号令と挨拶をしてようやく解散する。いつもなら高尾君や真ちゃんと一緒に帰ってるんだけど、今日は大事な先約があるから先に帰ってもらうよう断っておく。
「そうなんだ。誰かと約束あんの?」
「ええ、お兄ちゃんと今日は帰るの。」
その時なぜか高尾君の顔がいつもと違って、一瞬だけど目が鋭くなり怖かった。
「…そっか、じゃあ兄妹水入らずだな!」
私は気づかない振りをして、相槌を打つ。高尾君と真ちゃんと正門で別れると、お兄ちゃんがもう来ていた。
「お兄ちゃん、お待たせー!」
「夏美、俺も今来たとこだから大丈夫だ…っておっと!」
お兄ちゃんと帰れるのが嬉しくて、思わず抱きついてしまった。でもお兄ちゃんはいつものように拒否することなく、私を受け入れた。