第6章 WC開幕〜Ready Fight!〜
ーSide 高尾ー
試合が終わって早速夏美ちゃんは席を立ち、小走りでこの場を去った。きっと火神か辰也さんに会いに行ったのだろう。
それに、あいつ気づかれないようにしてたつもりかもしんねーけど、タイムアウトで揉めてた時に、今にも涙が溢れ出そうだった。
俺が鷹の目をもってんの忘れた、夏美ちゃん?バレバレだぜ。
「あー、真ちゃん!いい試合だったな、見てよかったぜ。」
「ああ、そうだな。」
そう言って俺達も席を立ち、大坪さん達の元へ向かう。俺は言ってる事とは全然違う事を考えていた。
俺さ、確信しちゃったよ。夏美ちゃんがずっと予選から誠凛気にしてたの。WCの試合ん中で1番、目を食い入って観戦してたし、兄貴の為に涙まで流しちゃうし、おまけにウチの試合は正直どこか上の空だったし。
兄貴思いだったり、昔の思い出大切にしたりするのはいいんだけどよ、やっぱり予選でのウチと誠凛の試合に私情を持ち込んでたってのはいただけないぜ。秀徳のマネって自覚、あんのか?
俺が口出す権利はねーけど、兄貴や火神の事お前がそんなに心配しなくても、きっと何らかの形で上手く纏まってたかもしんねーぞ?もし、拗れたらそれまでだったって事で割り切るしかねーだろ?
俺はあんま深く考えない性格だからこう言えるかもだけど。ただ、夏美ちゃんにもうちょっと今を見て欲しいわ。
また、これであいつの口から「お兄ちゃん、お兄ちゃん」って聞いたら、俺もう限界かもしんない。
「どうした、高尾?お前が喋らないと気持ち悪いのだよ。」
真ちゃんに意表を突かれて、俺はお得意の誤魔化し笑いをする。
「やっだなー、真ちゃん!俺が喋らないとそんな寂しい??」
「今のは訂正する。うるさい、黙れ馬鹿め。」
ツンデレな真ちゃんを茶化しながら、俺は夏美ちゃんに対する不満を無理矢理消そうとした。