第6章 WC開幕〜Ready Fight!〜
高尾は綻んでいた表情をキュッと締めて夏美を真面目でするどい眼差しで見つめる。夏美は高尾の痛い視線に耐えられず目を逸らすと、高尾は逃がすまいとして彼女を抱き締めた。
「!!ちょ、ちょっと何してるの!?離してよ!」
夏美は恥ずかしさのあまり、高尾から離れようと体を必死で動かして抵抗するが、彼はそれ以上の力で夏美をしっかりホールドしているため、抵抗は虚しかった。そして夏美の弱い耳打ちをして囁いた。
「…悪りい。夏美ちゃん。お前があんまり可愛くて、たまんねぇから、つい、な。それにお願いがあるんだけど、いい?」
公園の時の様に艶のある声が出そうなのを我慢し、心で反抗しながら体をビクつかせて夏美は耐えていた。
「…な、何?」
(やっぱり、耳ダメ〜!絶対狙ってるでしょ!)
そして再度耳打ちをして夏美に追い打ちをかけた。
「しばらく、このまま、いてもいい?大丈夫、これ以上は何もしないから…。」
(そんな、切なそうに言われたら、断れないじゃない。高尾君って、案外ずるい…。)
おまけに引き締まった逞しい体つきに夏美の心臓はドキドキとこの上なく走りまくり、また辰也とは違う匂いが嗅覚や脳天を刺激して思わずうなづいてしまう。
「う、うん。」
夏美が返事すると高尾は切なさと優しさが混じったような声色になる。
「…ありがとな。今年のWC、これでもっと頑張れそうだわ。どんなゲームよりも、どんな奴よりも、お前が唸るぐらいのプレー見せてやるよ。」
高尾の言葉を聞いて、自分のチームを他所に辰也を心配している自分に罪悪感が湧いて胸を締め付けられる。
「…うん、楽しみにしてる。」
(…ごめんね、高尾君。私今はお兄ちゃんの事が気になって仕方ない。今しかチャンスはないの。…なのに、あなたを失いたくなくて、傷付けたくなくて、ウソをついてる。なんて私は欲張りなんだろう。)
そして、緑間が誠凛と桐皇の試合を見終わり迎えに来るまで高尾と夏美はずっとそのままだった。