第6章 WC開幕〜Ready Fight!〜
「だってこのまま1人にしておくワケにもいかないだろ。というわけであとはよろしく。」
大坪含め3年生と2年生から次々と出て行き、緑間は眼鏡を押し上げて高尾に釘を刺してから後にする。
「高尾、やらかすなよ。」
「言われなくてもわーってるよ!」
(なんか真ちゃんに言われるとムカつくわー。)
高尾がムキになって言い返すと緑間は鼻で笑いながらその場を去った。もう控え室には高尾と夏美2人っきりだ。高尾は天井を見上げて考え込む。
(もしかして皆気い使ってくれたのかな?だとしたら俺ほんと恵まれてんなー。秀徳にして本当よかったわ。)
思わず顔が緩んでふと視線を夏美に戻し、愛おしく思って微笑みながら彼女の指通りの良い黒髪をわしゃわしゃと撫でる。
(マジで寝顔、天使みてーだな。…ずっとこうしていたい。)
しばらくそのままの状態をキープしていたが静かにしてるのが苦手な高尾はやっぱり喋りかけてしまう。
「あー、やっぱ無理!静かにしてんの!」
そして途端に真剣な顔になってわしゃわしゃと撫でる手を止めて囁いた。
「…なあ、夏美ちゃん。火神に告られた時、他に気になる人がいるって言ったよな?…それって俺?」
熟睡している夏美はもちろん答えられない。
(ま、反応なしだよな。夏美ちゃんから返ってくる言葉を聞ける自信がない表れかもな…。)
情けない自分に呆れる高尾だったがその時夏美が体をビクつかせて寝言を言った。
「…うう。お兄ちゃん…。」
寝言だとわかってはいるものの、ちょうどタイミングよく返事をしたみたいで高尾は内心面白くはなかった。
「ちっ!また兄貴かよ。全く、いい加減にしろよな。」
舌打ちして下唇を噛んだ高尾は夏美の頭をまず片手で持ち、もう一方の手を顔に添えて自分の方へ近付ける。細い目を鋭くさせて夏美に囁く。
「俺、そんなに気が長い方じゃねーんだ。…早く、兄貴の事なんか忘れて俺を好きになってよ。」
そして戸惑うことなく唇が触れるだけの軽いキスをした。寝ている夏美を起こさないようリップ音を立てずに。
唇を離した高尾は静かにそっと夏美の頭を膝元まで下ろし自分もそのまま眠りについた。