第1章 わたしのご主人様がえっち過ぎる件について
だけど、この時の私は知るよしもなかった。
メイドのお仕事が貴久さまの身の回りのお世話だけではないということを…。
「失礼します」
午後10時過ぎ。
仕事から帰宅した貴久さまに夕食を自室まで運ぶ様命じられ、ワゴンに食事を乗せ彼の部屋を訪れた。
貴久さまの帰宅は毎晩これくらいの時間だ。
専属のメイドである私はもちろん彼より先に眠る事は許されない。
「奈々花」
「はい?」
部屋に入ると貴久さまはソファに腰をかけ難しそうな本に目を通したまま私の名前を呼ぶ。
「今日1日ちゃんと私の言いつけを守っていましたか?」
貴久さまはプライベートでも丁寧な話し方を崩さない。
最初は慣れなかったけれど今は特に気にならなくなった。
「…はい。もちろん言いつけ通りにしておりました」
貴久さまの問いかけに返事をすると、彼は座ったまま本から視線を上げた。
銀縁眼鏡の奥の切れ長の瞳と目が合うと心臓がどきんと高鳴るのを感じる。