第2章 ご主人様とバスタイム(前編)
人生のどん底にいたところを貴久さまに助けていただいてから1ヶ月と少し。
映画でしか見たことの無いような広い洋館での勤務もようやく慣れてきた。
衣食住は保証されていているし、ここの人たちはみんな優しいので何不自由ない生活を送っているのだけれど…。
ひとつ悩みがあるとしたら、毎日寝不足でしょうがないという事くらいだ。
寝不足の理由は…わたしのご主人様は人より性欲が強過ぎるようなのだ。
「おかえりなさいませ」
日付が変わる少し前、ようやくご帰宅されたご主人様を出迎える。
木製の両開きの扉が開くと共に姿を現した彼は少し疲れた顔をしていた。
「お荷物お預かりします」
「遅くなってすまないね」
鞄を受け取る私を見て貴久さまは優しく目を細める。
優しげなのに色っぽいその眼差しに心臓がどきりとしたが、悟られない様頭を下げて彼の後ろへ退る。
「今日は役員の食事会があったので食事はいりません。このまま部屋に行きましょう」
「かしこまりました」
今夜もまた寝不足の夜が始まる。
彼の後ろを歩きながら私は体が熱くなるのを感じた。