第3章 3咲目,初陣
ようやく立ち止まったイリアは、泣いていた。
泣き喚くでもなく、声を押し殺すでもなく、ただただ、静かに涙を流していた。
いつも星空のように光り輝いていた深く透き通った碧い瞳は、曇りきった空のように淀んだ、光のない虚ろな瞳に変わっている。
いや、それ以上…空すら見えない、地下街の奴らのような、絶望の色をしている。
そんな瞳に、俺は何も言えなくなってしまった。
昔の俺と同じような、目をしている。
「…離してください」
「離せるわけねぇだろ」
「何故です…。聴いたでしょう?私の罪を…。幻滅したでしょう…」
「するわけねぇだろ」
「っ…やめてください…そうやって…私に甘い言葉をかけて優しくして離れていく!貴方も同じです、今まで私を好きだと言ってくれた人みんな!私の過去を、罪を知った途端離れていく!離れていくなら…最初から、私に近づかないでくださいっ!」
イリアは俺の胸元をグーで叩きながら泣き叫ぶ。
それがより一層、こいつの心の闇の深さを物語る。
「優しくしないでよ…離れる、くらいなら…私の罪を知って逃げるくらいなら…優しくしないで…っ」
「……」
今、俺は不謹慎かもしれない。こんなにも傷ついて泣いているイリアを前に、とても…綺麗だと思ってしまった。
そんなこいつがどうしようもなく愛おしくなって強く、優しく抱きしめた。
「!?」
「…確かにお前は間違いを犯したかもしれない。だが、それはお前のせいじゃない」
「な…んで…あれは…私の…私のせいなの!私の、一生消えない罪なの!だから私は人を愛してはいけない!私に愛された人は…みんな…死んでしまうっ!」
「それはそいつらの自業自得、それだけだ」
「っ…貴方に何が、わかるの!この手で愛する人を殺めてきた私の罪の何がわかるっていうの!」
「…俺も殺してきた。信頼していた、仲間を」
そうだ…俺も殺してきたじゃねぇか。
ファーラン…イザベル…部下たち…同僚…。
たくさん、殺してきたじゃねぇか。
同じだ。状況や理由、殺し方は違えども…俺とこいつは…同じ…。
「…俺もお前と同じだ。たくさんの仲間を見殺しにしてきた。救ってやれなかった…」
「…リヴァイ…さ…」
「俺は…お前になら、殺されてもいい。まぁ…お前が俺を殺しに来たら、俺がお前を殺して、俺も一緒に死んでやる」