第2章 2咲目,入団
「…おい…」
俺の腕の中にいるのはもうすぐ成人する、俺より小さな女。明日の試験に合格すれば調査兵になる、強い女。
こいつは自分の家族が死んでも涙を流していなかった。だが、俺は知っていた。兵団の兵士たちから大変だったなと言われるたび、拳を震わせて涙を堪えていたのを。
泣いてはいけないとか馬鹿なこと考えてたんだろ。ガキはガキらしく泣きゃあいいものを。
だから少しだけ手助けしてやることにした。これは俺の気まぐれと…こいつの兄との約束。
この女…イリアが泣いたとこまではいい。充分発散して吹っ切れただろうからな。だが…こいつの涙で団服が濡れて少し冷える。こいつを撫でた時にあったかかったから抱きしめたら泣き疲れたのか安心したように、無防備にそのまま寝やがった。
世話の焼けるやつだ。以前、男と2人きりで無防備になるなと言いつけたのに。
俺以外だったら即襲われてるに違いない。
イリアは兵団内で一番の美人だと兵士たちに絶賛されているしな。狙うやつも多い。それをこいつ自身は全く自覚をしていないから困る。
ふと、イリアの顔を見た。
「っ…」
安心しきったその顔が脳裏に焼きついていくのがわかった。
さらさらと手触りのいい雪のように真っ白で真っ直ぐな髪。
ふわふわと柔らかい頬。
影を落とす長い睫毛。
艶めく唇。
何もかもが今まで見てきた女とは違って見えた。
俺は初めて、人を美しいと思った。
「…っ…何を考えてんだ俺は」
俺らしくないことだと思ったが、こいつから目が離せない。
ーーーこの感覚は一体…なんだ?ーーー
わからない。こんな気持ちは初めてだ。
そんなことを延々と考えていると少し寒さが増した。
こいつは起きそうにないな。
「…仕方ねぇな…」
俺はこいつを横抱き(世間的にお姫様抱っことか言われてるらしい、くだらないがな)にして、こいつの部屋へと向かった。
その最中もこいつは俺の服を掴んでいて、離そうとしない。
甘えん坊、というのだろう。なぜこんなにも人に甘えられるのか理解できない。
だが、悪い気はしなかった。