第2章 “エース”を連れ戻せ
「えっと、それってどういう、」
「おーい旭―!終わったのかー?」
東峰先輩の背後へと目を向けると、3組の教室の扉から男子の先輩が身を乗り出して声をかけていた。東峰先輩はその先輩へ同様の声量で返事をする。
「あ、ああ!終わったー!次行けば良いぞー!」
「おー!分かったー!」
男子の先輩は私達に気を遣ってか、駆け足で私達の側を通り過ぎてくれた。行動が紳士だなあの人。東峰先輩はその背を見送ると、ゆっくりと戸惑いの瞳を私へ向ける。無理も無いだろう。突然初対面の、しかも1年の女子にこんな事言われちゃ。
「えーと…で、どういうことなんだ一体……」
東峰先輩は困惑が滲み出た笑みを浮かべ、頬を掻いた。
「その、突然すみません。どうしても、東峰先輩とお話がしたいんです。お時間良いですか?」
「う、うん。大丈夫だよ」
東峰先輩はやんわりとした口調で言葉を返す。容姿とは裏腹に、私を怖がらせない様気遣ってくれるのが分かる。
品の良い茶髪を総髪にし、顎に少し生えた髭が元より大人びた顔立ちをより強調させる。確かに高校生離れしていて威圧感を放っている。しかし、どこか落ち着きを持っている為か不思議とあまり怖くはない。
「旭、やっぱり帰って来てくれないか?」
「やっぱその話か…。俺は、戻れないよ」
「お願いします。みんな東峰先輩を待ってるんです。“エース”を、待ってるんです」
「!」