第2章 “エース”を連れ戻せ
「だってさ、瀬戸は入ったばっかで、俺らの事とかよく知らないだろ?なのに、俺らの為に何かしてくれるなんて…」
「…確かに、ちょっと変わってるかもしれませんね」
スガ先輩の言う通りやっぱ唐突だったかな。いてもたってもいられず行動に移してしまったんだもの、人間だもの、動物だもの。(みつをさん)
「いや!変じゃなくて、優しいなぁと思ってさ!」
「や、優しいなんて、そんな。私は、役に、立ちたいだけなんです」
「役に?」
「…はい」
私は両腕で膝を抱えると、指と指をきつく握り合わせる。重い口をゆっくりと開く。スガ先輩は真剣な眼差しを向け、静かに私の言葉を待ってくれる。
「私は、男子の人と、上手く関わる事が、苦手です。でも、決して男子の人が嫌いなわけではないんです。少しずつ仲良く、していきたいです。今はまだ、無理、かもです…。その分、みんなの役に立ちたいんです」
ポロポロと胸の内を零した。千切れ千切れの言葉がスガ先輩に届くか分からないが、ほんの少しでも良いから届いてほしい。それで良い。
「そっか。ありがとう、瀬戸」
「…え?」
「ホントは苦手なのに、マネージャーになってくれて。昨日も言ったけど、少しずつ心を開いてくれれば良いんだからな」
スガ先輩は私を見て微笑んでくれる。優しさに満ちた笑顔は、私の緊張の糸を解き、欠点をも受け止めてくれた。その事実に目頭が柔らかく熱を産みだしていく。
「旭を説得しようとしてくれるのも、ありがとう。俺と日向、影山が言っても、聞いてくれなかった。瀬戸も、アイツに何とか言ってやってくれ!」
スガ先輩は困った様に眉尻を下げてニシシと悪戯な笑みを浮かべる。
私は一度瞼を降ろし、目に浮かび上がって来た涙を奥へと戻す。そうだ、私に出来る事ならどんな事でもしてみせる。そう決めて私はここへ来たんだ。
「はいッ…!」
私の返事に、スガ先輩は一瞬驚愕した様に目を見開いた。その後スガ先輩は口を真一文字に結い、真剣な気を表情に纏わせる。
「うん、絶対戻ってきてもらおう!」
今度は私が驚かされてしまった。
―――先輩の瞳の中に、希望の光が浮かんでいた。