第9章 鴉の腹を肥やす
「確かに。いつもだったら大きく手を振ったり声掛けたりしそうなのに、さっきは何でか小さく手振っただけでしたもんね」
「照れてたんだろ」
「はぁ〜〜〜ッ?!」
国見と岩泉の適当な分析に、及川は恥ずかしさと怒りやら声を荒らげた。勝手な発言だが図らずも図星を突かれてしまい、咄嗟の誤魔化し方がそれしかなかったのである。
更にその騒ぎを聞き付けた松川と花巻が「何だ何だ」と参戦。事の次第を嬉々として国見は話す。2人は「あのハンカチの乙女か〜」とニヤニヤニマニマしながら口元を押さえる。
「違うから!そういうんじゃないから!目立つ挨拶したら及川さんのファンの子達に見られちゃうでしょ!かといって伊鶴ちゃんに挨拶しないのは失礼だし?!周りに変な誤解されたら伊鶴ちゃんに迷惑かかっちゃうし?!だから小さく挨拶したの!!」
「ここまで凄い早口ですね」
「コイツここまで誤魔化すの下手だったか??」
「恋すると男は皆バカになっちゃうんですよ。この人は前からだと思いますけど」
国見と花巻は顔を寄せてタチの悪いヒソヒソ話を展開させる。この及川の言葉も本音であるのだが、耳まで真っ赤の赤面状態では如何せん説得力に欠けた。
「しかし、あの及川が人の迷惑を考えてるとはな〜」
「明日の天気は槍だな」
「いやぁもう槍でも何でもじゃんじゃん降って下さいって感じです。及川さんに」
「クニミチャン??!!!」
「クニミ・チャン???」
「俺 中国人じゃないです」
散々な言われようの自分の主将に、金田一は密かに哀れんだ。