第9章 鴉の腹を肥やす
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──────…一方 青城にて
先程及川の頭をはたいた岩泉は、片手に拳を作りながら彼の素行に対して青筋を立てていた。
「さっき釘刺しといてこれかお前は」
「何が?!俺、人に挨拶しただけで2連チャンでキレられるって いつから人権奪われてるの?!」
「お前のは挨拶じゃなくて煽りとナンパだろ」
「さっきから岩ちゃん失礼過ぎない?!チームワークってご存知ですか?!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ2人を横目に、1年の国見は『大丈夫かこの人達』と無機質な視線を向け、金田一は心配そうにオロオロとする。
「第1、瀬戸にデレデレしてんのバレバレなんだよ。さっき集中しろっつったばっかだろ」
「ソ、ソンナバカナ!!」
「誤魔化す気あんのか お前」
「バンナソカナ!!」
「それ伝わる世代 一体何人居るんだよ」
動揺からか頭を抱えて巫山戯た発言(本人は真剣)を繰り返す及川に、岩泉はジトッとした目を向ける。その傍らで、金田一が首を傾げた。
「あの、瀬戸さん?って誰ですか?」
「あぁ、烏野のマネージャーだよ。ほら、そこでボール出ししてるだろ」
岩泉がくいっと指差す方向を見てみると、ボール出しに忙しなく動いている伊鶴が居た。
観客席の手摺から少し身を乗り出し、彼女の容貌を目にした金田一の身体は石化したようにビシリと固まる。
「か、かっわ……!!」
「へぇ〜かわいい子だなぁ」
「なっ、バ、違っ!!」
「え?独り言だけど?え?何?お前もかわいいって思ってたわけ??付き合いとか思っちゃった??へー?ほー?ふ〜〜ん」
「〜〜〜〜〜ッ!!!」
「国見、畳み掛けんな」
「イジメだ…」
いつ間にか隣に立っていた国見により、金田一が口に出来なかった言葉が引き継がれた。自身の邪な部分を突かれた様な気分になった金田一は、恥ずかしさから否定しようとするが、結果的に自ら墓穴を掘ってしまい撃沈する。容赦ない後輩の所業に及川は戦慄した。
そんな彼らを尻目に、国見は伊鶴の姿を目で追っていた。
「なるほど。つまり彼女は及川さんのお気に入りですか」
「ていうか好きなんだろ」
「は、はぁ〜〜?!」