第9章 鴉の腹を肥やす
* *
「そろそろか…」
「?」
アップの最中、チラチラと時計を気にしていた鵜飼コーチがぽつりと呟いた。
「澤村、時間だぞ!」
「! はい!」
アップを中断し、コーチが澤村主将に呼び掛けた。まだウォームアップの時間が残っているというのにどうしたのだろうか?私が頭に疑問符を浮かべている間に「皆、集合!」と主将の号令が掛かった。皆は分かっていたかのように戸惑う様子も無く、一斉に主将の周囲に集まってくる。
「ど、どうしたんですか?まだウォームアップの時間ですよね…?」
「うん。そうなんだが、皆が揃ってるウチに円陣を組もうって話になってな。烏養さんに時間を貰いたいってお願いしたんだ」
「そうそう!清水はベンチに居れるけど、瀬戸は居られないだろ?だからその前に“チーム全員”で気合い入れるべって!」
「チーム、全員で、「瀬戸やるぞー!!」
「うわっ!!」
背後からの衝撃に遠慮無く驚いてしまう。慌てて振り替えろうとすると、日向の太陽みたいな笑顔とかち合う。ニコニコと嬉しそうに私の肩を組む彼に、『突然の体当たりは良くないぞ』とか『女子の肩を遠慮無く組むのはどうなんだ』とか色々言いたかったが、野暮になるのでもう何も言えない。
それよりも貴重なウォームアップの時間を割いてまで、わざわざ私が居る間にも円陣組もうとしてくれているという事が素直に嬉しかった。
諸々思考を巡らせてると、私のもう一方の肩をスススと組んできた潔子先輩。いつの間にいらっしゃったのか…と目を丸くしていると、視線に気付いた潔子先輩がニコッと微笑を浮かべる。圧倒的美。もうそれだけで何も言えない。潔子先輩の笑顔に弱過ぎないか私。
「「あ〜〜〜ッ!日向お前〜〜!!」」
「ヒィッ!」
田中先輩と西谷先輩が鬼みたいな形相で日向を睨む。レーザー光線出てそうな眼力の2人に日向はピャッと肩を竦めてしまう。間接的に潔子さんと肩を組んでる事に怒っているのだろう。
「………」
「い゛?!ぁいだだだだ!!」
「?! ひ、日向大丈夫?!」
「影山お前!!肩外れる外れる外れる!!!」
「………」
「無言でやるのやめろ!!!」