第9章 鴉の腹を肥やす
「おーい!お前らアップの最中に何やってんだ!」
「瀬戸も早くボール出し手伝え!」
「「「す、すみません!」」」
主将と烏養コーチの声に、私含めた後輩組は反射的に謝罪が飛び出た。図らずも主将とコーチに助けられてしまう。元はと言えば私のせいなのに申し訳無い。そう思いつつも足早にボール出しへと向かう。
「あっ!!らっきょヘッド!!」
「?!」
ところが、日向の不可思議なセリフに思わず足を止めて振り返る。日向の視線の先は観客席に向かっていた。一体“らっきょヘッド”とは何なのかと私も日向の位置まで行き、観客席へと顔を向ける。
するとそこには青葉城西高校のメンバー達が揃っており、思わずギョッとする。
恐らく“らっきょヘッド”であろうトンガリ頭の人物がいたが、彼は思い切り動揺しているし隣の真ん中分けの少年に笑われている。気の毒な…。
「ら、らっきょヘッドて…」
「どう見てもらっきょヘッドじゃん」
日向の肩にポンと手を置き 首を横に振る。
『それ以上はやめて差し上げろ。』既に同じチームの人に笑われている彼に対し、せめてもの情けを込めて。
「やっほー!トビオちゃん、チビちゃん♪元気に変人コンビやってるー?」
「!」
聞き覚えのある軽快な声に 再度観客席に顔を向ける。
「大王様っ…!」
モデルばりの爽やかな笑顔でピースをしている及川さんがそこに居た。悠然としたその態度は、まるでバルコニーから国民達を見下ろす国王にさえ映る。
彼を目にしてから 日向と影山さんの顔付きが強ばった。それも当然か…。岩泉さんに手をはたかれて悲鳴をあげている様な人だが、強豪校に君臨する青城の主将を務めているのだ。背筋が伸びないわけが無い。
岩泉さんに叩かれた手を擦っている及川さんに視線を移すと、不意に彼とバチッと目が合う。こちらも見ていたとはいえ、視線が合うと緊張してしまい顔が強ばる。
対する及川さんは にっこりと微笑んだかと思うと、ヒラヒラと小さく私に手を振る。
慌てて 会釈をすると何故か満足げに満面の笑みを浮かべた。次いでに岩泉さんに頭をはたかれていた。
い、今のは何だったのだろうか……。