第9章 鴉の腹を肥やす
「…とりあえず今は良いだろ。もうすぐ試合なんだから集中しろ」
「ハイハイ、言われなくても〜〜」
鎌先の言う通り、後数十分で試合が開始される。生意気を言うだけあって意識をすぐにバレーへと切り替える。二口の表情が引き締まるのが分かり、茂庭は一先ず安心するのだった。
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《第一試合開始 25分前》
やっと皆の元へと戻ってきた頃には、アップを取る為 既に体育館のコートへと入っている時であった。
「あっ、瀬戸!遅いぞ何やってたんだ!」
「す、すみませんコーチ!」
「あ〜〜ッ!田中さん!瀬戸が帰って来ましたよ〜!!」
「なにィ?!瀬戸が!?」
私の存在に気付いた日向が驚いた様子で田中先輩に呼びかけた。すると、2人揃って慌てた様子でバタバタと私に駆け寄る。
「瀬戸〜ッ!!おま、お前〜!生きて帰って来れたんだな!!心配したぞチクショー!!」
「す、すみません。色々とありまして…」
「瀬戸はどこの戦地に行ってきたんだ」
伊達工から無事帰還したことに、田中先輩は涙目で安堵の声をあげた。それに対しスガ先輩は冷静にツッコミをいれる。
「大丈夫か?!何があったんだ?!あの鉄壁野郎達に鉄壁されて鉄壁られたのか?!」
「落ち着いて日向。鉄壁されなかったとは一体??」
続いて日向も心配して矢継ぎ早に質問をしてくるが、焦ってるせいか聞いた事のない名詞を使用されている。
「大丈夫だよ。伊達工の人の落とし物返しに行っただけだから」
「そ、そっか…。けど随分遅かったな。何かあったのか??」
「……ナンニモナカッタヨ」
「急にカタコト????」
「それは何かあったやつの反応だぞ」
「お母さんの目ぇ見て話しなさい」
誤魔化すのが下手過ぎて日向と田中先輩とスガ先輩に詰め寄られてしまう。思わず目を逸らすが8:2で嘘はついていない。二口さんに詰め寄られたり、嫌な思い出が蘇ったり、二口さんと及川さんが衝突しかけたりしたが、四捨五入すれば結果的に何も無かったに等しい。そう、あれは何も無かったのだ。(暗示)