第9章 鴉の腹を肥やす
説教もそこそこに切り上げ、茂庭と二口もアップに参加する。
ボールを操り、身体をあっためながらも、二口の頭の傍らには伊鶴のことがあった。
「う〜ん。確かバレーやってたかって聞いた辺りから おかしくなったんだよなぁ…」
「え?あのマネージャーさん、バレーやってたのか?」
「多分なんですけどね。中学の時地元の新聞であの人っぽい女バレの選手が載ってたのを思い出したんスよ。なんか記事がデカデカと目立ってたんで印象に残ってて」
「へ〜。大きい記事になるくらいだったなら、きっと派手に活躍したんだろうなぁ」
「確かそうでしたね。その時も、同じクラスの女バレの子が記事持って騒いでたんスよ」
茂庭の言う通り、二口の記憶の中の新聞記事もとある中学校の女子バレー選手の活躍を賞賛し、大きく取り上げていたものであった。
華々しくスパイクを決める写真と、大きな見出しが付けられており 話の輪に居なかった二口の目をも引くほどだった。
その話をしていた女バレの選手にとって、地元の選手ともなれば恐らく面識もある相手。それが大きく取り上げられているとなれば騒ぐのも必至である。
しかし、生憎二口はその選手の名前は覚えておらず、そこに掲載されていた顔写真が瀬戸伊鶴と似ている、というだけで決めつけることは難しかったのだ。
「あ、見出し…そう見出しだ…。当時の俺の厨二心を擽ったんだよ…」
「は?なんの話し??」
「だぁーーー何だっけ!!なんかこう、“東洋の魔女”!!的なやつ!?」
独り言というにはあまりに大きく、恥ずかしげな台詞に 茂庭を始めとするメンバーが呆れたような、しかし心配するような憐れむような表情を向ける。