第9章 鴉の腹を肥やす
「あっすいませーん。他所の人全然全く関係無いんでー。俺の話なんでー。お引き取りをくださいますー?」
「あ、そうだったの?なんかごめんね。でもさ、まともに話してるように見えなかったよー?」
「えーーどういう思考回路なんですか??超ウケるーー」
露骨に嫌悪感を剥き出しにする二口と、笑みと言葉の裏から棘を見え隠れさせる及川。
一触即発とも言える双方の様子に、茂庭の青い顔は益々真っ青になっていく。
そして、少し遠巻きに見守っていた岩泉は、「あのバカ…」と腐れ縁の幼馴染に頭を抱える。
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事の始まりは、いつもの如く外でファンの女子生徒達と絡んでいる及川を、相棒の怒りの後頭部サーブで連れ戻してきた道中のこと。
岩泉の苦労を尻目に、悪態と文句を垂れながら歩く及川の足と口が不意にピタリと止まる。どうかしたのか、と岩泉が声を掛けるが全く反応を示さない。
及川の視線の先を見ると、そこには見覚えのある少女の姿があった。烏野のマネージャーの一人、瀬戸伊鶴。
岩泉は彼女との接点など、ほぼ皆無に等しい。しかし彼は、瀬戸伊鶴の姿をよく覚えていた。
岩泉は初めて彼女を見た時、『小学生くらいの時に、同じ顔した奴を見たことがある』と、ぼんやりと幼い頃の記憶と重なった。
岩泉が思い描いたのは、同じクラスだった同級生の男子の姿だ。