第9章 鴉の腹を肥やす
※ ※ ※
「────何の話?」
静謐な声に、ハッと伊鶴の意識が引き戻される。勢いのままに声のした方向へ向けば、そこには強かな笑みを浮かべる完璧な均整を持った横顔があった。
「ゲッ…」
「せ、青城の、及川徹…!?」
いつ間にか伊鶴の隣には青葉城西高校 主将、及川徹が現れていた。そしてその近くには、副主将の岩泉が控えている。
突然のことに伊鶴は呆気に取られ、隣に佇む及川を見詰めていると、その視線に気付いたのか彼はにこやかな笑顔を向ける。
「やぁ伊鶴ちゃん、久しぶり」
「お、及川さん…お久しぶりです…」
『何を呑気に返事をしているんだ』と伊鶴は自身に問いながらも、あまりに自然に声を掛ける及川に釣られて返してしまった。
「伊鶴ちゃんの姿が見えたから寄ってみたんだけど、邪魔しちゃったかな?」
不意に話の矛先を向けられた茂庭は、思わず肩を撥ねさせる。
「い、いや、邪魔っていうか、そんなんではなく……!」
「なになに?良ければその話、俺も交ぜてよ〜」
口ぶりでは下手に出ていながらも、どこか威圧感を滲ませる及川の完璧な笑顔と声音に、茂庭は額から冷や汗が噴き出る。