第2章 “エース”を連れ戻せ
「えっ・・・・?」
スガ先輩の顔から笑顔が消滅する。頬を掻く指が止まり、力無く腕がするりと身体の横に落ちる。
「あ、あは・・・瀬戸凄いね。そんなん気付くの瀬戸くらいじゃないかな・・・」
スガ先輩は僅かに俯きながら笑みを浮かべる。スガ先輩はやはり何か抱えていた。西谷先輩が“旭さん”は帰ってないのかと聞いた時と同様に暗い表情だ。
「何が、あったんですか・・・・・?」
スガ先輩は瞼を降ろし、深く息を吸い込んで肺に入れる。不意に顔を上げ、私を見る。――――――その目は、今にも涙を零しそうに潤んでいた。
「聞いてくれるか・・・・?」
私は黙って頷いた。スガ先輩は息を吐くと、千切れ千切れに言葉を紡ぎ始める。
「烏野のエースは、東峰旭って言うんだ。アイツは身長もパワーもあって、苦しい場面でも、難しいボールでも決めてくれるから、みんなアイツをエースと思ってたんだ」
スガ先輩は思い出話でも語るかの様に言った。今現在の事の筈なのに。
「でも――――――俺はあいつに頼りすぎた」
「え・・・?」
「旭はさ、ある試合で、旭のスパイクが徹底的に止められたんだ・・・・」
「もしかして、それが原因で・・・・」
自分の攻撃が相手に効かない。どんなに打っても点が入らない。それがどんなに辛いか、分かる。分かってしまう。
「うん・・・・エースである旭がマークされるのはいつもの事なんだけど、“あの試合”では、それがとにかく徹底的だったんだ・・・旭は、人一倍責任感じちゃう性格だからさ・・・・」
スガ先輩はふにゃっと今にも泣きそうに笑顔を浮かべる。その笑顔に、胸が酷く痛む。