第9章 鴉の腹を肥やす
「え、え?」
「お、おい二口?」
驚いて振り返ると、眉根を寄せてこちらに歩み寄って来る二口さんの姿があった。
ズンズンと向かって来る二口さん。
呆気に取られ 固まる私。
二人の距離は当然の如くみるみる内に縮まっていった。
気付けば彼は 前屈みになり、整った顔をずいっとこちらに近付けていた。
傍から見ればドラマのような一場面も、ときめく流れや場の雰囲気が無ければ只の恐喝シーン。心が踊るわけがない。
彼の訝しむ表情は、私を怯えさせるには十分過ぎる代物だ。
「やっぱり」
二口さんは目を細めて呟いた。その呟きに、私と伊達工の面々も目を丸くする。
「なんか、どっかで見たことある顔なんですよね」
「……え?」
彼の口は思わぬ事実を告げた。
目の前の彼が私を知っている?思い当たる節などなどさっぱり無い。正真正銘の初対面だ。対する二口さんは顎に手を当て、首を捻る。
「どこかで会ったとかじゃなくて、こっちが一方的に、みたいな感じなんですよね」
「は、はぁ」
「なんかで テレビとか出たことあります?」
「え、いえ、とんでもない」
突拍子も無い話に、何故だか心がざわつく。気付けば胸の前で手を重ね合わせ、強く握り締めていた。
「んー……なんだっけなぁ。う〜〜ん……。
────あっ」
困ったように唸る二口さんが、突然思い付いたようにパッと目を開く。すると、再び勢い良く私の方へと向き直る。