第9章 鴉の腹を肥やす
「茂庭さ〜ん。いつまでやってんですかぁ?さっさと話済ませてくださいよ」
「あっ!ああそうだった!」
呆れた顔の二口さんからの言葉に、お辞儀をしていた伊達工の母改め、“茂庭”さんがガバッと顔を上げる。再び茂庭さんはすみません〜ッと申し訳無さそうに頭を掻く。
そんな彼のほんわかオーラの隣から、物凄い視線と圧を感じる。発生元は例によって二口さん。
何故だ。何故なんだ。しかし理由は何であれ、私は見えない振りに徹するぞ。怖いから。
「あの、用事の方は何でしょう?」
「あぁ、えっと、これなんですけど…これ、どなたか落としてませんか?」
「…その紙は、あぁっ!お、俺っ?!俺だ!」
私が取り出して拡げた紙を見ると、茂庭さんは心当たりがあったのか慌ててポケットをまさぐった。伊達工メンバーの人達もなんだなんだと私の手元に注目する。
「すみません本当〜〜…何から何まで……」
「いえ!とんでもない。見つかって良かったです」
「ったく主将だろ?しっかりしろよな本当〜」
「すまん鎌ち…」
茂庭さんに苦言を呈したのは、少々明るい髪色の“鎌ち”と呼ばれた人だった。茂庭さん、主将だったのか…。
今まで見てきた主将たちは迫力や貫禄たっぷりだったので意外ではあるが、面倒見の良さや人徳から主将に選ばれたのだろう。
と、余計な事を考えている場合ではない事を思い出す。
いい加減 持ち場に戻らなければならない。遅くなっては迷惑をかけてしまうだろう。
「あの、じゃあ 私はこれで、」
「ちょっと待って」