第9章 鴉の腹を肥やす
「ん……?」
伊達工が去った後に、折り畳んだ紙の様な物が落ちているのに気付く。
小さくなったそれを広げてみると、会場使用にあたっての諸注意が書かれた用紙だった。
色々と直筆でメモが書かれており、そこには個人名も書かれていた。これは往来にそのまま放置していて良いものではないだろう。
「どうした〜?瀬戸。もう皆行っちまうぞ?」
「田中先輩、これがそこに落ちてて。もしかしたら伊達工の方が落とされたのかもしれないので、私ちょっと聞いてきます」
「え!?さっきの奴らんとこか?!そんなら俺が行ってくるぞ?」
「い、いえそんな!大丈夫ですよ。すぐ済むでしょうし、田中先輩も先に行ってください」
「そ、そうかぁ…?なら先行ってるけど…何かあったらすぐダッシュで逃げて来いよ!良いな?!」
そう言って私に釘を刺すと、田中先輩は皆の元へと向かっていった。先程の事もあってか、田中先輩はかなり心配された様子だ。
確かに私一人というのは怖いが、マネージャーの私が手を煩わせては駄目だろう。
そう自分に言い聞かせながら、慌てて伊達工の影を追った。
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角を曲がって辺りを見渡せば、頭一つ分抜けたあの強面の彼のおかげですぐ伊達工を発見出来た。少し怖気付いたが、走った勢いに任せるしかないと腹を括る。
「あ、あの!すみません!」
「ん?あ、はいっ!」
私の声に気付いて反応してくれたのは、幸いな事に止めに入ってくれたあの方だった。
その人は私の顔を見ると、丸い目をぱちくりとさせる。
「あれ、もしかして烏野のマネージャーさん?」
「あっ、はいそうですが…」
「さっきはウチの2人がすみませんでしたっ!皆さんにとんだ御無礼を…」
「あぁ、い、いえ!そんな!」
申し訳無さそうに頭を下げるその方に、私も慌てて下げ返す。その後は二人揃って お辞儀の応酬になってしまった。