第9章 鴉の腹を肥やす
「か、影山さん!!」
思わず彼の背に呼び掛けていた。驚いたように振り返る影山さんの顔が見えた瞬間、自分が何をしたのかに気付きサッと血の気が引く。
「どうした?」
「あ、あの、あのですね?あの、」
突然呼び止められた事と、声を掛けた張本人があたふたしてる事に影山さんの頭の上のクエスチョンマークが増えていく。
何かしなければという思考が先走って動いてしまい、何も考えないまま彼を呼んでしまった。
とにかく話のタネを探さねばと、ショート寸前の頭をフル回転させる。
はたと、ジャージの上着のポケットに入れていた、ある物を思い出し、急いでポケットに手を突っ込む。
「かっ、影山さん飴、飴いりませんかっ?!」
「…は??」
ポケットに入っていたのは、はちみつレモン味の飴。何故だか自信満々な私は、少し得意げにそれを差し出す。
対する影山さんは、相手から意気込んで突き出された物が予想外だったようで、拍子抜けした声が零れた。
「し、試合前とか、緊張する時には甘い物が良いんだそうです。良かったら。ちなみに、はちみつレモン味です」
「お、おう。じゃあ、貰っとく」
神妙な面持ちで後付けのように理由を説明する。半ば雰囲気納得させに掛かっているように見えるのは…気のせいだ。
影山さんは私と飴とを交互に見詰め、戸惑いながらも黄色い包みのそれを受け取ってくれた。
そうこうしつつ、先を歩く皆の背を追う様にして再び歩き出す。
隣を歩く影山さんの静謐な横顔は、何故だか手にしている飴を見詰めている。何か気になるのだろうか。毒ナンカ盛ッテナイデスヨ。
「なぁ、瀬戸」
「はっはい!」
心の中で巫山戯た事を考えていたのが見抜かれたかと思ってしまい、反射的に身構える。
影山さんはその様子に小首を傾げながらも、私に問い掛ける。
「お前 この飴好きなのか?」
「えっ??」
彼の問いに、今度は私が間抜けな声を上げた。