第9章 鴉の腹を肥やす
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嫌に立派な会場に漂う厳粛な匂い。そこに集う人々の鋭利な緊張感。
私はこの空間が酷く苦手だ。
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会場入り手前で早々、烏野の汚名が未だ健在である事を知らしめられた。
しかしそれを抜きにしても、会場を歩くだけで人の目を集める烏野は存在感があり、良い意味でも注目されているのだろう。
東峰先輩は勘違いに尾ひれ背びれが付いた悪い噂で注目されてますが。
「東峰先輩とんでもない濡れ衣じゃないですか…」
「ハハ…世の中って世知辛いよね…」
人の噂は当てにならないの良い例を見てしまった。ある意味東峰先輩らしいのかもしれないが。とりあえずあの人たちは睨んでおこう。
潔子先輩も当然その美貌から他校の男性陣から注目を受けているが、抜かりなく田中先輩と西谷先輩というALS○Kが付いているので守りは盤石だった。
そんなA○SOK達は潔子先輩からバインダー制裁を行われているけど。あれ始めから潔子先輩だけで心配なかった…?
西谷先輩も中学時代にベストリベロ賞を受賞されていたらしい。そんな栄誉を意に介さない所も男らしい。
と、不意に辺りが僅かにざわめく。反射的に耳をそば立てて聞いてしまう。
「オイ、アレってアレだろ…天才セッターって噂の…」
「北川第一の─────“コート上の王様”?!」
その言葉が耳を掠めた瞬間、影山さんがキッと声の主を睨み付ける。瞬く間に彼の様子が不機嫌なものに変化する。
“コート上の王様”、それは確か影山さんのことだったか。影山さんにとっては不名誉どころか汚名とも言える名だ。
『その名が未だに自分に纏わりつく』。
それは、変わろうとする者への足枷だろう。
私はどうしてか、影山さんの背に声を掛けずにいられなかった。