第9章 鴉の腹を肥やす
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「着いたー!きっと俺らが一番乗りだな!」
駐輪場に自転車を置くと、揃って部室棟へと向かう。学校の静けさの中に、私と日向の砂地を踏み締める音だけが響いた。
そんな中、日向が突然ぽつりと言葉を落とす。
「なんか、瀬戸とこうやって大会行けるなんて変な感じだなぁ」
「え?」
「だって中学の時は別々だったろ?それが今は同じチームとして大会参加出来るなんてさ、思ってもみなかった」
日向はこそばゆそうな笑みを浮かべて頬を搔く。私は彼の言葉に何も言えず、押し黙る。
「俺あの時のこと忘れられない。瀬戸が出た───“あの試合”。メンバーみんな凄かった。でも、誰よりも瀬戸がカッコよかった!」
「……そんな昔のこと、よく覚えてたね」
「そんな昔って言う程かよ!俺は昨日のことみたいに覚えてる!」
懐かしむように語られる内容に、微笑みながらも思わず目を伏せる。
日向の言う“あの試合”とは、恐らく私が中学2年の時に出場したIH予選。
私にとってあの記憶は最も輝かしく、そして最も情けない物だ。思い出せなくなれば、どれだけ楽だろうとまで考えてしまう程に。
日向の足が止まる。
私の足も止まる。
どうしたのかと顔を向けた先。思わず息が止まる。僅かに顔を伏せた彼の静謐な横顔に、一瞬だが“かつての記憶”が重なる。中学の時、日向のたった一度の公式戦。何故、それが今フラッシュバックしたのだろう。
やがて何かを決意したように、日向は私に目を向ける。
「……なぁ、瀬戸。本当は聞いちゃいけないのかもしんないけど、」
不思議と、その言葉の先が分かった。
分かってしまった。
その先を、耳が拒む。心が拒む。
「どうして、!」
「!」