第9章 鴉の腹を肥やす
日向が肩を震わせて私の後方に視線を向けて固まる。それに釣られて振り返ると、身を乗り出し物凄い勢いで爆走して向かって来る影山さんの姿があった。
固まる私と日向。
瞬く間に私たちの横を通り過ぎてしまう、かと思いきや、“ギャリギャリギャリ!”と砂地に踵を擦り付けて急停止する。今日はそういう日なんだろうか…。
影山さんはバッと顔をこちらへ向け、見開いた目と鋭い眼光を走らせる。日向は隣で「ヒエッ」と声を上げた。
影山さんはこちらへ向き直ると、仁王立ちをし金剛力士像のような面構えへと変化する。
「何でお前ら一緒なんですかコラ…」
あまりの凄みに、日向はブルブルと携帯のバイブレーションと化してしまう。とりあえず私は代弁者として答える。
「い、行きの途中にたまたま日向と会ってそれで…」
日向はブンブンと千切れそうな勢いで頭を降ると、影山さんは何か引っ掛かるのか変わらず私達を凝視する。こわい、凄くこわい。
途端、影山さんは日向のこめかみを物凄い勢いでゴリゴリと攻撃し始めた。
「痛゛い痛゛い痛゛いッ!!」と日向からは野太い悲鳴が上がる。影山さんはやり逃げするかのように部室棟へと走っていく。
「あっ!!待て影山ぁ──────ッ!!」
日向は痛むこめかみを抑えながら、怒りの声を上げて追い掛けて行く。
一連の騒動に頬を掻き、私も二人を追うようにして歩き出す。
二人の言い合う声を耳にしながら、先程の日向の言葉を思い出す。
『本当は聞いちゃいけないのかもしんないけど』
『どうして─────』
言いにくそうにしていた彼の、あの言葉の先を、私はきっと知っている。