第8章 こんな夜じゃなきゃ
『まぁなんだ、お前も溜め込み過ぎんなよ。そんなんじゃいつか窒息すんぞ?』
「別に、何も溜め込んでなんかいませんよ」
『ふ〜ん、なら良いけどよ。なんかありゃ話くらいは聞かせてくれよな?』
たまには センパイ面くらいさせてくれや。
そう話す黒尾さんの声と言葉は、何よりも優しかった。
見透かされているのに、不思議と嫌な気分がしない。つっかえていた何かを外してくれたように、ストンと心に落ちるものがあった。
「黒尾さん」
『どうした?』
本当に化かされているのか、なんて馬鹿なことを考えてしまう。
「 ごめんなさい。本当は、明日がとても不安なんです」
『…それはどうしてか分かるか?』
「…よく、分かりません。ぐちゃぐちゃで」
『じゃあ、1つずつ話してみろよ。きっと整理が着くはずだ』
───こんなにも自然と言葉を吐き出せるのは、きっとこんな夜だからかもしれない。
“コートに立つのは私ではないのに、何故か無性に恐ろしいこと。” “明日自分がみんなに何が出来るのか。”
ぽつぽつと拙い言葉で紡ぐ話を、黒尾さんは 黙って聞いてくれた。
全てを吐き出す頃には、重しが降りたように心は身軽になっていた。
『もう良いのか?まだあれば話して良いんだぞ?』
「はい、もう大丈夫です。ありがとうございました」
『そうか。なら良いけどよ』
黒尾さんと通話を始めてから、軽く1時間弱は経過していた。彼も大事な試合が控えている。これ以上引き止めては申し訳が立たない。
「長々と話してしまって、すみませんでした」
『いやいや、電話したのは俺だし。こっちこそすまんかったな』