第7章 おかしな烏野高校排球部
及川が女子に物を贈るのは、これが初めてではない。
それに至る経緯の大半は、所謂女子への“お返し”というものだった。年中問わず及川の元には やれチョコだクッキーだ、はたまたタオルや服だシューズだの色んな物が贈られる。
その度 及川は笑って礼を言い、後日お返しをする。貰っては返し貰っては返し。もはや流れ作業のようにお決まりに繰り広げられるやり取りを 岩泉は既に見飽きていた。
以前及川が「モテるって困るな~」と自慢に見せ掛けたボヤきを零していた。及川自身、どこかで一種の虚無感を覚えていたのかもしれない。
しかし、そんな及川が。
「まぁ初恋みたいに」
「デレデレしちゃってねぇ〜〜?」
「…お前ら面白がってんだろ」
にまにまと口元を緩ませ、愉快で仕方が無いとでも言う顔の花巻と松川に、岩泉は呆れ返った瞳を向ける。
「いえいえ滅相もない。我らがキャプテンの恋を応援してるんですよ、ねー?」
「そうそう陰ながら応援してるんですよー、ねー?」
女子が秘密でも語らうかのように顔を見合わせる二人に、岩泉は更に深い溜め息を吐く。
「お前らの場合は 只の野次馬だろーが」
「心外だなー岩泉。俺らは及川を思うと腹が捩れて仕方無いっていうのに」
「ほう、それはさぞかし飯も美味かろうよ」
悪魔って目に見えるモンなんだな、と岩泉は目頭を押さえ、疲れを吐き出すように溜め息をつく。
確かに、あの及川が女一人に あれこれ左右され 心を乱されている様は、中々に貴重で面白いのだが。そう言いたくなるのを岩泉は心に留めた。
「でもアレだな」
「あ?」
「及川、ちゃんと人のこと好きになったんだな」
松川の言葉に、花巻も同調するかのように笑みを浮かべる。
「あんな風に人と付き合ってたら、その内自分の気持ちがどこにあるのか分かんなくなるよ、きっと」
来る者拒まず去るもの追わずといった調子で人と交際をする及川を、二人は案じていた。自分の気持ちを大事にして欲しいと、切に願っていたのだ。軽口の裏にあった、二人の想いを感じとった岩泉は、しばらくすると抜悪そうに首の後ろを掻く。
「本当に まぁアイツは──────」
愛されてんなぁ。