第7章 おかしな烏野高校排球部
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影山飛雄。 及川徹。
その二人が対峙した瞬間、どうなるか。人々は本能で知っていた。既に場所は剣呑な雰囲気に包まれ、誰もが固唾を飲んで見守るしかなかった。
当事者の一人である瀬戸伊鶴でさえも。2人を交互に見つめ、不安げに行く末を見守る他無かった。
「何なのかな?俺、飛雄には用はないんだけど」
「そっちが無くてもこっちにはあります」
影山の言い方が不愉快だったのか、及川の目が細まる。が、次には口の端が釣り上がり嫌味をたっぷりと含んだ笑みが現れる。
「あっそ。で、何?」
「瀬戸と、どういう関係なんですか」
「どういう関係、って言われてもねぇ…」
そう言いつつ 及川の視線が伊鶴へと移る。
「そうだねぇ……強いて言うなら~…」
ズンズンと自分の元に歩み寄って来る及川に、伊鶴は『え?自分??』、と後ずさりかける。伊鶴はこういった大人数いる中で自分に注目が集まることを好まない。寧ろ避けたい状況だった。その為か、顔が引き攣り逃げ腰になっている。
そんな伊鶴を知ってか知らずか、及川は胡散臭い笑みを浮かべながら ポケットに手を入れ小さな包みを取り出した。
「伊鶴ちゃんは俺の恩人かな」
伊鶴は面食らったように目を丸くし、及川から差し出された物を受け取る。
「え、と、これは……?」
「あの時のハンカチ、のお返し。汚れ取れなくって、新しいのをね」
伊鶴は受け取った紙袋を開き、恐る恐る中の物を取り出す。
「わぁ かわいい…!」
愛らしい様々なハリネズミがポーズをとっているハンカチが姿をみせる。思わず彼女の顔に笑みが溢れた。
「どう?気に入ってもらえた?」
「はい、ハリネズミ好きなので嬉しいです。ありがとうございます」
小さく微笑み 礼を言う伊鶴に、及川は「そっか」と安堵したように呟く。また伊鶴と二言三言会話を交わすと、彼は手を振り軽やかな足取りで その場を離れた。
そんな及川の背を見ていた岩泉は「見てるこっちが恥ずかしくなる奴だな」率直な感想を述べ、頬を掻いた。