第7章 おかしな烏野高校排球部
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「わざわざすみません、途中までで良かったのに…」
店を出て、徒歩で数十分以上の所に瀬戸ちゃんの家はあった。家の明かりは煌々と灯っており、家族が彼女の帰りを待っているのだろう。
「何言ってるの、夜に一人で帰るなんて危ないんだから当然でしょ!それに、女の子を送るのは男の役目だしね!」
軽くおどけてみせると、瀬戸ちゃんはクスクスと小鳥の様に笑った。
まただ。
胸の辺りがじんわりと締め付けられるのと同時に、温かいものが染み渡っていく。その“温かいもの”の実態は不透明で曖昧だが、その笑顔をずっと見ていたいという思いだけは確かな事だった。
瀬戸ちゃんは少し俯くと、空いている片手で髪を耳に掛けた。
「今日は、本当にありがとうございました。それじゃあ、私はこれで…」
鞄を籠に乗せた重い自転車を引き、彼女は自宅の玄関へと向かい始めた。歩く彼女に合わせて揺れる後ろ髪に何故か────無性に惹かれたのだ。
「ま、待って!!」
気付けば勝手に喉から声が飛び出していた。
自分でも分からなかった。分からなかった。でも、彼女を、瀬戸ちゃんを引き留めなければならないような気がした。