第7章 おかしな烏野高校排球部
瀬戸ちゃんはフォンダンショコラを手元に引き寄せる。柔らかな生地にフォークを通すと、中からとろりとしたチョコレートが流れ出した。彼女は一口サイズに切り、溢れたチョコにそれを丁寧に絡めると口へと運ぶ。
──────────パクッ
「……美味しい」
「ケーキ、久しぶりに食べました…。凄く美味しいです」
懐かしむように呟く瀬戸ちゃんに、思わず頬が綻ぶ。やっと彼女の緊張の糸が絶たれたように感じた。
「ねっ!ここのスイーツ美味しいでしょ?」
「…はい」
瀬戸ちゃんも僅かに微笑んだように見え、また俺は嬉しくなった。
※ ※
「でね?岩ちゃんが俺にボールぶつけてね──」
それから次第にではあるが、お互い言葉が紡がれていった。時間なんて物の存在を忘れてしまう程夢中になった。俺の言葉に、彼女の表情が切り替わるのが、何だかとても嬉しくて、次々と話を投げ掛けた。
「っふ、ふふふっ。そんな事が…二人は仲良しなんですね」
「えー!でも“親しき仲にも礼儀あり”じゃない?!」
そういうと、彼女は丸い目を細めてまた笑った。桃色の唇が弧を描く姿が夢の様に嬉しかった。硝子の様な繊細な雰囲気とはまた違い、その微笑みは花の如く愛らしい。俺はその笑顔を飽きる事無く見詰めていた。
「あっ」
「何?どしたの?」
テーブルに置いた携帯を手に取った彼女が小さく声を上げた。俺はストローから口を離して問い掛ける。
「あの、時間が……」
「あっえっ!?もうそんな時間?!」
瀬戸ちゃんの携帯を見せてもらうと、店に入ってからかなりの時間が経過していた。夜遅くまで女の子を連れ回しているというのは褒められた事ではないだろう。
「そっか……じゃあ、そろそろお開きにしようか」
「…そうですね」
彼女はどこか寂し気に、笑って目を伏せた。その姿に思わず喉の奥から声が飛び出る。
「──────送ってくよ!」
「えっ?」
「こんな時間だし送らせて。お店の外で待っててよ」
「あ、じゃあお金を渡し、」
「奢るから!ほらほら早く!」
「え、そんな!」