第7章 おかしな烏野高校排球部
そこで夢は終わった。
目を擦りながら半開きの目で白い天井を睨み付ける。部屋の時計を見ると時刻は12時を迎える数分前を指していた。寝転がったまま伸びをするとベッドが軋んだ音を立てる。
不完全な動きをする寝起きの頭で、先程見た夢に思いを馳せる。
何とも不思議な夢だった。何故彼女が、瀬戸が出てきたのか。やはり今日のことが関係しているのだろうか。あの───触れれば消えてしまいそうな程儚い微笑みに。
あの夢の中、俺はあの絵画に触れようとした。すると、次には絵画は真っ黒に塗り潰され、その姿を消し去った。
そして、瀬戸の声が何かを必死に伝えようとし始めた。もしや、触れようとしてはいけなかったのだろうか。瀬戸は『触れてはいけない』と、伝えたかったのだろうか。
仮にそうだと仮定して、何故触れてはならなかったのか。それがどうしても分からない。
俺は自身の手を見詰め、それをぱかぱかと開閉させる。
瀬戸は、あまり口数の多いやつじゃない。加えてアイツは表情の変化も乏しいやつだ。どう感じているのか、何を考えているのか注視しなければ理解出来ない。
だから、ちゃんとアイツの口から話してくれなければ、俺はアイツを────瀬戸を分かってやれない。
─────なあ瀬戸。
お前は、何かを隠しているのか?
踏み込んで欲しくないことが、触れて欲しくないことがあるのか?
あんな泣きそうな顔で何を隠してんだよ。
あの時、あの美術館で、お前に触れてしまったら。
糸車の針に触れて何百年もの眠りについた姫のように。
毒の林檎を齧り息絶えた姫のように。
例え──────────死んだとしても、
俺は、お前に触れたい。
お前を、知りたい。
眠りの中に消えていく意識の中、どこかで───誰かの泣く声が聞こえた気がした。