第7章 おかしな烏野高校排球部
『例え死んだとしても、』
※ ※
夢を見た。
俺は古びた美術館に居た。白い壁面に、黒い染みやら汚れやらが浮き出していた。照明どころか窓すら無いそこは何故か明るかった。
その美術館には絵画が一枚しかなかった。
それにも関わらず何故そこが美術館なのかと解ったのは、申し訳程度にその絵画の前にパーテーションポールがしてあったからだろうか。
その絵画には一人の少女が描かれていた。金色の豪奢な額縁の中で、その少女は無表情でこちらを見詰めていた。
そのどこか静黙で気高い表情に、心を突き動かされ、一歩一歩彼女に近付いた。すると、そこで気が付いた。
この絵画の少女は、瀬戸だと。
驚愕の余り足が止まった。すると、不意に頭の中に声が響いた。
『影山さん』
瀬戸の声だった。反射的に辺りを見回すが、瀬戸は居なかった。
そうだ。この美術館には俺と、『彼女』の二人だけ。誰も、何も居ない。二人きりなのだ。
再び彼女に目を戻すと、彼女は笑顔を浮かべていた。思わずパーテーションポールの寸前まで駆け寄る。
間違い無く彼女は微笑んでいた。黒曜石の如く黒く美しく輝く大きな瞳は細まり、桃色に色付いた唇は三日月の様な曲線を描かいている。優しさに満ち溢れた洗練されたその微笑みに、目が離せなくなった。
─────きれいだ。
無意識の内に前のめりになって彼女に手を伸ばす。すると、
─────グシャッ。
瀬戸の絵画は、黒、紫、青と入り交じったどす黒い油絵具でぐちゃぐちゃに一瞬の内に塗り潰され、見る影もなくしていた。
『』
また、頭の中で声がした。だが 何故か上手く聞き取れない。
『』
瀬戸、何て言ってるんだ?
『』
まだ聞こえない。
『』
頼む。お願いだ、教えてくれ。何て言ってるんだ?
『』
ダメだ。分からない。
瀬戸、お前は、一体、何を───────