第7章 おかしな烏野高校排球部
『後輩に手を噛まれる』
※ ※
気に食わない。
ガジガジと箸を噛み、眉根を寄せながら不機嫌さを露骨に示した。
『秘密』
秘密ってなんだよ。
そう言葉が口を突いて出そうになったが、それを発する前に伊鶴は台所から逃走した。手持ち無沙汰になった俺の口は間抜けに開いたままになってしまった。
しかし、教えて貰えなかった事は何の障害にもならなかった。贈り主の人間の検討くらい容易に出来た。
恐らく、影山飛雄。
まず、伊鶴が貰ったというキーホルダー。それがどことなく影山君に似ていた事。
二つ目。
伊鶴に弁当を届けに行ったあの日。影山君の言葉。
その言葉にどれ程強い想いが込められているかを身を持って知っているからだ。あの日から、何らかのアプローチをしていてもおかしくは無い。
そして三つ目。
贈り主を聞いた時、伊鶴が動揺していた為だ。少なからず動揺してしまう相手、それは少しでも贈り主に好意を持っているということに繋がるだろう。
部内で伊鶴が気になっている相手。それは、───影山飛雄だから。
伊鶴、『秘密』って────笑って言えるくらい、好きな相手なのか?
でも、それでも、俺は──────
「鴨一~。そろそろ出掛けないとまずいんじゃなーい?」
「…あーうん。そろそろ行く。ご馳走様でした」
母の声で我に帰った俺は、咥えていた箸を机に置いた。早く準備をしなければ。
そう思いながら──────ヒビの入った箸を一瞥した。