第2章 “エース”を連れ戻せ
「おれ、エースになりたいんです…!」
「ッ!?」
その発言に、弾かれた様に私の目は見開らかれた。驚愕に顔が引き攣る。自分が今どんな表情を浮かべているか分からず、慌てて片手で口持ちを覆う。
「何年か前の“春高”で烏野のエースの“小さな巨人”見てから、絶対ああいう風になるって思って烏野来ました!」
日向が中学の頃から小さな巨人に強い憧れを抱いていた事を知っていたが、エースになりたいというのは初めて知った。
でもそうか。“小さな巨人”は烏野のエース。日向がエースを目指していたってなんら不思議ではない。だが、私は苦い表情を隠しきれない。日向の純朴な心根を目にすると、私の落ちた気分も晴れていき、心中で日向に感謝する。
「その身長で、エース?」
西谷先輩の張り詰めた声が零れる。日向の明るい顔も、影を潜めた。私は西谷先輩の言葉に唇を噛んだ。やはり何か厳しい言葉を刺すのだろうかと身構えたがそれは無意味なものとなった。
「いいなお前!」
「!?」
「だよな!カッコイイからやりてぇんだよな!いいぞいいぞ!なれなれ!エースなれ!!」
予想に反し、西谷先輩は日向に賛辞を送る。日向も予想外だったのか目を白黒させる。だよね、西谷先輩が批判したりなんかするわけないと思っていたが、あの言葉がガチなトーンで思わずまさかと思ってしまった。
ワタシ悪くない。悪いのは先輩の声のトーンなのデス。
「けどやっぱ“憧れ”といえばエースかあ…」
「ハイ!エースカッコイイデス!」
“エース”って響きがカッコイイもんなーちくしょう西谷先輩が羨望の言葉を綴り始める。
そうだよねーやっぱどのスポーツも“エース”って憧れの的だからなぁ。
先輩の言葉も重ね続けていると、影山さんがムッとし、影山さんの不機嫌さが増す。それをスガ先輩がまあまあと宥める。地味って言われたみたいで気に食わないのネ。