第2章 “エース”を連れ戻せ
第2章 『”エース”を連れ戻せ』
* * *
「あの、西谷さん」
「?」
遠慮がちな日向の声が耳を掠め、その方へと目を向ける。皆も釣られたのか日向へと視線を注ぐ。
「“旭さん”て誰ですか?」
「! 不用意にその名を出すなっ…!」
日向が“旭さん”と言葉を綴った瞬間、田中先輩の顔が蒼白に染まり、叱るように言葉を吐いた。日向の問いに、西谷先輩は渋る様に眉根を寄せて答えを重ねた。
「烏野の……エースだ、一応な」
「一応?」
最後の言葉を口にする時西谷先輩の声音は低くなり、どこか重みを孕んでいた。その言葉が引っかかり、オウム返しに答えを求めない問いを呟いた。西谷先輩と反し、日向の顔はパッと輝いて弾んだ声を上げる。
「エース…!」
「? なんだよ」
日向は無表情、というか、非常に何とも言えない面白い顔をして沈黙する。何だろう、あの表情。
日向は数秒その顔で静止していると、不意に唇を動かした。