第7章 おかしな烏野高校排球部
「分からないっ?瀬戸でも?」
「はい…。妹の私ですら」
主将は驚いたように素っ頓狂な声を上げる。私は情けなさに肩を萎縮させる。つくづく自身の不甲斐無さを感じてしまう。
「仲が悪いなんてことはないんです。兄さんは、人の顔色を窺ったり、空気を読んだりするのが上手な人で…まぁ、ちょっとからかうのが大好きな悪癖を持ってる人ですけど…」
その言葉に、月島さんが真顔で粛々と首を縦に振る。どうやらこの短時間で鴨一兄さんへの苦手意識が深く根付いてしまったらしい。まあ、あんな事されてしまってはそうなるわな。
「でも、本当に優しくて気遣いが出来る人なんです。周りの人の様子がいつもと違ったりすると、すぐに気付いて気にかけたりとかも多くて。でも、でも」
「…でも?」
影山さんの気遣うようなたどたどしい瞳が私を捕らえる。その視線を受け、私は光沢のある床へとほんの少し目を逸らす。
「兄さんは、何を考えて、何を思ってるのか、分からないんです」
皆の僅かに息を呑む呼吸が聞こえた。私は自身の練習着の裾を強く掴む。
「長く側に居るけど、いつも笑っていて、誰に何を言われても平気な顔してて、『大丈夫?』って聞いても、笑うだけで何も話してくれなくて」
昔の記憶。
”兄さんの澄んだ横顔を見詰める私に気付き、穏やかに微笑みを浮かべた。『大丈夫だから』と一言投げかけると、私の頭に温かく大きな手を乗せる。”
─────いつもいつも、只それだけ。
自分にどれだけ屈辱的な言葉が投げつけられても、大した反応も見せずに終わる。そんな兄を、私がどんなに心配していても『大丈夫』の一言で切ってしまう。
「私が、どんなに心配してても、何も話してくれないんです。どんな気持ちなのかも、何も教えてくれない」
私の気持ちも知らないで、全部自分の掌の上で片付けてしまう。
「────だから、私は、鴨一兄さんが苦手なんです」