第7章 おかしな烏野高校排球部
「! …言うねぇ飛雄くん」
「こうでも言わなきゃ信じてくれないと思ったんで」
余裕の笑みの裏に押し込めた敵意と、表に見せる敵意を湛える対照的な二人が対峙する。その光景は、隠し持った牙を互いに探り合う凶暴な獣のよう。
────何時噛み付きにかかってくるのかと、警戒するかのように。
「まっ良いや」
鴨一は笑みを深めて肩を竦めると、体育館の扉へと向かって歩き始める。
「今日はお弁当届けに来たのと、部活のみんながどんな子達なのか見に来ただけだから。みんな良い子達で安心したよ」
古びた扉を開くと、体育館の外へと彼は足を踏み出した。生温い風が鴨一の髪を躍らせる。風は体育館へも入り込み鴨一の秀麗な顔立ちと絵画のような立ち姿に見入る部員達の頬を撫でる。
ふと、鴨一は動きを止め部員達を振り返る。部員達は、夢現から引き戻されるかのようにはっとして鴨一に向き直ると、部員達一人一人の顔をじっと見詰めていく。
「俺、きみ達には本当に感謝してるんだ。ありがとう。どうかこれからも────妹を、伊鶴を、支えてやって欲しい」
「「「!!」」」
鴨一の顔に、繊細な硝子細工の如き儚く悲しげな笑顔が咲く。今にもその場に崩れ落ちて、涙を流しそうな、そんな笑顔が。
しかし、一瞬で鴨一の顔からその表情は消え去った。まるで顔そのものを入れ替えたかのような早さで表情が切り替わったのだ。いつもの飄々とした笑みがそこに現れると、鴨一はひらひらと手を振りながら扉を閉め始める。
「じゃあ部活頑張ってくれよな~。“後輩”クン達っ」
「え、えっ!?ちょ、鴨一さ、」
────ガラガラガラッ、バン
呼び止める影山の声を遮るかのように閉められた扉は、無慈悲に彼と鴨一の間に壁を張る。影山の伸ばした手は無意味となり、虚しくぱたりと降ろされる。
広い体育館に残されたのは、夢と現の狭間に残された烏野部員達だけだった。