第7章 おかしな烏野高校排球部
「へぇ…。何だ、てっきりツッキーくんが開口一番かと思ったのに」
「ぬ…俺だって言いますよ。月島ばっかじゃないです」
鴨一の瞳が愉快そうに細まる。対する影山はいつもの不機嫌そうな表情が姿を現している。しかし彼の表情の根底では、幾つもの感情達がぐつぐつと器の中で煮え滾り、どろどろに溶け合っているのであった。
「…で、仮に飛雄くんの解釈が正しかったとしたら、どうなの?」
鴨一は作業ズボンのポケットへと両手を入れ、影山の切れ長の瞳を見据える。周囲の部員達は一触即発な雰囲気に固唾を飲み、二人を交互に見守ることしか出来ずにいた。冷静沈着な月島も、この時は額に汗を滲ませていた。
「鴨一さんは、瀬戸のこと好きってことなんスか?」
「そうだね」
「恋とかの好きですか?」
「恋、っていうより、愛かな」
「兄妹なのに?」
「変かな?」
「変じゃないっス」
鴨一の返答に他の部員達が面食らう中、影山だけは真っ直ぐな瞳で鴨一を見詰める。鴨一は僅かに逡巡した後、影山に言葉を投げる。
「……どうして変じゃないって思うのかな」
「俺は男です。鴨一さんも男です。瀬戸を好きになってもおかしくないです」
「伊鶴と俺は血ぃ繋がってるんだよ?」
「? だから何スか?瀬戸のこと好きになったらダメなんスか?」
鴨一は余裕に満ちていた目を大きく見開くと、ぷっと小さく噴き出した。
「っ、ははっ、あはははっ」
腹を抱え、鴨一は大きく口を開けて笑い声を上げる。ここに来て初めて見せた破顔に、部員達は目を丸くした。
「いやぁ~…面白いね、きみも。すっごく単純なのにすっごく説得力の有る答えだよ。そうかぁ…うん、そうだね」
自己完結し一人うんうんと頷く鴨一は、不意に影山に向き直る。
「それで、飛雄くんの質問に答え終わったけど。改めて聞くよ。どうするんだい?」
影山は僅かに肩眉を跳ね上げ、山なりに歪んだ鴨一の目を見据える。
「──────どうもしません、真っ向勝負するだけです」