第7章 おかしな烏野高校排球部
「まーまー大地くん落ち込まないでよ。別に君達をからかう為だけに聞いたわけじゃないんだよ」
からかう為もあったのかよと内心で全員がツッコむ。鴨一はそんな事は露程も知らず先を続ける。
「まぁね、きみ達は伊鶴と同年代で、同じチームの仲間なわけだ」
鴨一の声音がワントーン低くなった事に、自然と場の温度が下がる。全員の背筋を冷たいものが這いずった。
「きみ達が伊鶴を好きになることは自由だし、それは自然の摂理だ。俺はそれを咎めることなんてしないさ」
飄々とした口調と顔を埋める笑顔とは裏腹に、彼の纏う空気は冷ややかなものだ。その場の誰もが指先一つ動かすことを躊躇う程に。
「だって俺────────伊鶴のものだからね」
彼の奇妙な言葉に、全員の胸中に驚愕と疑問が生まれる。それと同時に、彼の言葉に何故か息を呑んだ。強い感情の渦がその言葉の中には渦巻いていた。鴨一は彼らの反応は予測していたかのように、“優しげ”な笑顔を浮かべる。
「だから俺は咎めることなんてしない。この事はこれから先も揺るがない。死ぬまで俺は伊鶴の側にいるんだ。死ぬまで、ね。だから、“きみ達が伊鶴のことを好きになるのは自由”だよ」
舞台の台詞の一節でも読み上げてるかのような現実味の無い言葉に、部員達の混乱は更に深まる。鴨一は腕を組み、只涼やかな笑みを湛えるだけだ。
しかし、不意にあっけらかんとした場違いな声が、静まり返った空間に波を打つ。
「あの、それってつまり───“自分はアイツと一緒に居られることが約束されている。
だから誰がアイツのことを好きでも関係無い“……そうカイシャク?して良いっスよね?」
「「「「!!」」」」 「!」
驚きに満ちた瞳が、彼───影山飛雄の不思議そうな顔へと向かう。