第7章 おかしな烏野高校排球部
番外編 『影山飛雄の誕生日 朗らかな放課後の話』
* * *
「あ、俺今日誕生日だ」
「え、ホントですか」
「ああホント」
唐突に声を上げた影山さんを驚いて見上げる。濡れたような艶やかな黒髪を弄りながら影山さんは私を見返す。
穏やかな冬の放課後。他の皆は帰り、体育館には私と影山さんの二人きりだ。緊張していた私だが、ほつほつと会話を絡ませている内に、緊張の糸は緩み、後片付けに精を出している。
しかし、影山さんの発言により動きは停止し、影山さんを見詰めているという状況である。
「そうだったんですか」
「うん、そうだった」
影山さんはボールを籠に放り込む。放物線を描いて籠へと向かっていったボールは音も無く綺麗に収まる。
「……」
「……」
私達の間に沈黙が流れる。二人が床を踏み締める音だけが体育
館に響き渡る。何となく気まずくなり影山さん方を見る。
「「ッ!!」」
影山さんと目が合う。
一瞬で私の顔は熱を帯びる。影山さんの顔も真っ赤に染まる。
頭の中が真っ白になり、何を言えば良いのか分からず口をパクパクさせるが、何とか言葉を絞り出す。
「影山さん、おめでとうございます…」
「あ、ありがとう…」
恥ずかしさに耐え兼ね俯く。モップを強く握り締める。汗ばんだ手が非常に不快である。ぐるぐると渦巻く頭の中に、吐きそうになる。しかし、誕生日の影山さんに何かしてあげたい。何か、何かってなんだ。プレゼント?
いや、影山さんの趣味分かんないじゃねぇか私。
でも、何か、何か……!!
「あ、あの!!」
「お、おおっ。何だ?」
「そ、その…」
「…?」
「い、い、一緒に……帰りませんか…?」
「!! ああ…」
何で誕生日に一緒に帰りませんかなんだよ馬鹿かよ。咄嗟に出た言葉に後悔の念を抱いていると、影山さんが口を開く。
「瀬戸」
「? はい…」
「帰り、何か買って帰るか…。その、ケーキとか…」
「! はい…!」