第7章 おかしな烏野高校排球部
「はいはい逃げない逃げないって、ちょっと本気で逃げないでくれる?傷付くんですけど」
「アナタハドチラ様デショウカ私ハ全ク以ッテ存ジ上ゲマセン」
「わあ何その徹底振り凄い傷付く」
私の手首を掴んでぐいぐいと引っ張り、用具室から引き摺りだそうとする輩はブロークンハートしている事を訴えているが、私は全力で素知らぬふりをする。私の全身を持っていこうとする力に対抗するように、用具室の扉に必死に掴まり堪えている。
「ここまで来たら観念しようか。ていうかそれもう意味無くない?」
「……」
「うん、返事くらいしようね」
勝手にしろ、私は知らん。
しかし悔しいかな、事実だけ見れば奴の言葉は本当だ。身体のほとんどはもう用具室から出ており、傍から見れば滑稽どころの姿じゃないだろう。腹が捩れるとはこの事かと言う程笑えるくらい珍妙な光景だ。
先程皆の前で悲鳴を上げた事、そして今こうやって珍妙な体勢を取っている事。立て続けに皆に醜態を晒す事になるとは。昨日の私が知れば、今日は休みますと即答しそうな事態だ。
「ん~~~随分強情だなぁ…」
背を向けている為、“アレ”表情は全く見えない。しかし、何事か考え込んでいるようだ。しかし、その間も全く手を緩めない。ちょっとは気ぃ緩ませんかい。
「あ~~~きみきみ。そう、そこのきみ」
不意に“アレ”が誰かを呼んだ。驚いて左側に顔を向けると、月島さんが不可解そうに眉根を寄せながら近寄って来る。そして、“アレ”は笑みを湛え、他の皆の方へ視線を動かし品定めでもするかのように見詰める。
「ふんふんふん…よし、そこのオレンジ頭の子。ちょっと来て」
「え、えぇ!?おれですか?!」
「うん、おれくんだよ」
日向は戸惑うに瞳を彷徨わせながらも、こちらへと小走りでやってくる。何かごめん日向…。