第7章 おかしな烏野高校排球部
「あ、は、はい。そうですけど…」
主将が戸惑いながらも“アレ”に返事をする。すると、暫しの間無音の時間が空間を流れる。しかし、私には“アレ”が「ふーん…」とでも呟きながら周囲を見回している光景が容易に想像出来た。
皆から困惑が含まれたざわめきが生まれる。当然だ、突如知らない人間が現れれば誰でも動揺する。そんな混乱の最中、きっと“アレ”はいつものように作り込んだ笑みを浮かべながらそこに立っているのだろう。
「あのー初めましてなのに突然で申し訳ないんですけどー、
─────瀬戸伊鶴って居ますか?」
「瀬戸…ですか?今は居ないですけど…」
スガ先輩が“アレ”に返事を返す。スガ先輩も“アレ”に対し警戒心を抱きつつも、私が頼んだ通りに答えてくれた事に感謝する。
「んん?居ない?あれーおかしいなぁ…メールしたのに」
スガ先輩の言葉に、“アレ”は不思議そうに言葉を漏らす。
こいつ、大して疑問持ってないくせに不思議そうにしてやがる。
芝居がかった台詞に、思わずその場に唾棄したくなる衝動に駆られる。最も、私しかそう思ってないのかもしれない。すると、突然カッポカッポと場の雰囲気に似つかわしくない音が体育館から響いてくる。ああ、誰かが動き出したのかと頭の中で簡単に処理する。しかし、数秒後に全身に鳥肌が駆け巡る。
この音は、“アレ”の足音でしかありえないのだと気付く。
他の皆であればシューズのキュッという音である筈なのだ。しかし、“アレ”はここの生徒でも何でもない。当然来校者扱いだ。何故すぐ気付かなかったのか。この音はスリッパだ。
─────こっちに、近付いて来ている。