第7章 おかしな烏野高校排球部
「あの木に引っかかっていた。それってつまり、誰かが使っていたってことですよね。きっとここで練習してたのか、友達とかと遊んでたりしてて、その時に引っかかって取れなくなっちゃったんでしょう」
彼はボールの輪郭を愛おしそうになぞる。その光景はまるで一枚の精巧な絵画のようだ。
「今はこんなにボロボロになっちゃったけど、それでもこのボールを使っていた人が居たのは確かな事実で。きっとこのボールにはたくさんの思いや、思い出が詰まってると思うんです。それを、このまま木に引っかかったままに、出来なかったんです。だって、俺も、
──────バレーが好きだから」
そう言って、彼は屈託無く笑みを見せた。虚構の貼り付けた笑顔なんかではない、本当の笑顔。やっと垣間見えた彼の本当の姿に安堵にも似た喜びが芽生える。
そうか、彼も、烏野のみんなと同じバレーが好きな人なんだ。
「…何だか、会えて良かったです」
「え?」
「え、あ、いえ、その、ボ、ボールが、その…あなたのような人に取ってもらえて、きっと、喜んでます」
彼は少し驚いたように目を見開くが、また微笑みを浮かべる。
「ありがとうございます、嬉しいです」
今度も偽物ではない笑顔を見せてくれた。それだけで
胸がまた温かくなる。
気付けば曇り空は、晴れていた。