第7章 おかしな烏野高校排球部
「はい。だいぶボロボロですし、空気も抜けてるんですけどね。あ、どうぞ隣に座って下さい」
「あ、すみません。失礼します」
彼に勧められ、隣に腰を降ろす。横目に彼の手にしてるバレーボールを見詰める。
所々表面がぽろぽろと剥がれ落ちており、土などや風化により黒ずんでいた。白かったであろう部分は最早見る影を無くしていた。空気も抜けぺしゃんこに潰れたボールは彼の手の中で沈黙している。
「これがですね、そこの木の上の方に引っかかってたんですよ」
彼は軽く身を乗り出し、私達の座っているベンチの左斜め後ろに生えている木を指差す。
「それを取ろうとして木に登ったんですけど、足を踏み外し
ちゃいまして、おかげでこんな事に…。アハハ」
彼の登ったらしい木の近場に、踏み台になりそうな物は無い。木もそれなりの高さを持っていて、一歩間違えれば大怪我を負っていた可能性も否めない。
「どうして、それを取ろうとしたんですか?もしかしたら、もっと酷い怪我を、してたかもしれないのに」
そう問い掛けると、彼は手元のバレーボールに視線を落とす。
「そう、ですね。その可能性も勿論考えたんですよ。昔、木登り結構得意で、今でもそれなりに出来るんじゃないかって思って」
苦笑を浮かべる彼を見詰める。どこか演技めいたそれは完璧に満ち過ぎていて、演技なのか本当なのかの境界線が曖昧になる。
「でも……」
突然言葉を詰まらせた彼の顔を見る。その瞬間、私は僅かに目を見開く。
「どうしてもこのボールを取りたかったんです」
彼の表情が、穏やかなものになる。
それは、偽物などではない笑顔。