第7章 おかしな烏野高校排球部
彼の笑顔は、あの時の黒尾さんの笑みに酷似しているように感じるのだ。張り付けた笑み。奥底に何かを隠しているようなその笑みに、胸中に蟠りが生まれる。
「……」
「? あの、どうかしましたか?」
「えっ、ああいえ。その、何でもないです」
慌てて平静を取り繕うが、彼は不思議そうに小首を傾げて私を見詰める。見透かすようなその瞳に背筋を冷や汗が伝う。穏やかな筈のその表情は、嘘は許さないと語っているようにしか感じられなかった。
怖い、凄い怖い。怖さのベクトルが何か違ぇ。何か喋らないと不味いと判断し、汗ばむ手を握り締め話題を投げかけてみる。
「あの、足の怪我、この公園で…?」
「あぁ!はいそうなんですよ。ホントお恥ずかしい限りで…」
たははと後頭部を掻く彼の表情に、再び恐怖を覚える。今私が質問した事により、彼の表情はほんの少し変化を見せた。明確な変化では無いが、確かに彼の表情は和らいだように感じる。
彼は、私を見定めていたのだ。
その理由はまだ分からない。彼が何を思っているのか抱えているのか全く分からない状況だ。不用意に彼の機嫌を損ねるのは危険だろう。彼の一挙手一投足に神経を張り巡らせる事が第一である。
「何か、あったんですか?」
「ん~~…あはは、その、笑わないでくださいね?」
頬を掻く彼は照れくさそうに笑う。こくりと頷き返すと、彼は上半身を屈め、ベンチの下へと手を伸ばし、あるものを取り出した。彼の手にしていた物に思わず目を瞬かせる。
「バレーボール、ですか?」