第7章 おかしな烏野高校排球部
私は地面に片膝を着き、彼の足元へと跪く体勢になる。
「え、あ、ちょっと?!」
彼は私の行動に面を喰らったようで、軽く動揺を見せる。私はその表情を一瞥すると、彼の左足に視線を移す。ベンチに乗せた左足は靴下を取り払っていた。踝から下が露わになっている。視認出来るのはその部分だけだが、彼が健脚である事が窺えた。
「!」
しかし、それは今は間違いである事に気付いた。
彼のジャージは青地に白いラインの入ったものなのだが、裾付近の一部分が濃い藍色に染まり、明らかな変色が見られた。私は彼を静かに見上げ問い掛けた。
「裾、捲っても?」
その瞬間、彼の動きは完全に停止する。
眉一つ動かさず口を真一文字に引いている。私はその表情に畏怖に近いものを感じる。しかし、彼が怪我を負っている事は明らかなのだ。手当をしないわけにはいかなかった。有無を言わさずジャージの裾に手をかける。
──────パシッ!
私は目を見開き、眼前の状況を理解することに数秒を要した。
彼の手が、私の手首を掴み動きを止めていた。
ゆっくりと視線を上げていく。すると、彼の顔がそこにあることが気配で分かった。しかし、私は何故かそのまま顔を上げることが出来なかった。
否、恐ろしかった。
異様な程冷や汗が首筋を伝い、悪寒が背筋を走る。
「ダメです」
その一言に、手が震撼を始める。彼の声音は至って優しいものだった。しかし心臓が警報のように早鐘を打ち始める。何故か恐ろしくて仕方がない。手首を掴む彼の手に力が籠る。震える瞳で彼を見上げる。その瞬間、私は更に目を見開いた。
「見ちゃ、ダメです」
────彼は、射殺すような瞳で私を見詰めていた。