第6章 手に手をとって
研磨はゼロ距離に突き付けられた黒尾の携帯を、半ば奪い取るように取っ払い、改めて黒尾の書いたメールを見る。
「クロのメールって何気女子力高いよね。顔文字の使い方とか…」
「え、そう?だって可愛くね?猫の顔文字とかさ」
「う、うん。そうだね…」
いや無駄に使い方心得てるのが妙にイラッとくるんだよ。研磨はそう言いたいのを堪え、喉の奥へと押し返す。
「まあこれで送れば良いよ。大丈夫」
「お、おおし。わかった!」
黒尾は突き返された携帯を手に取り送信ボタンを押す。次には『送信されました』と画面に表示される。その文字に、初めて黒尾は胃が締め付けられるような感覚を覚える。
「うう~~……何か胃が痛ぇ……」
「え、ちょっと緊張し過ぎでしょ。落ち着きなよ」
「大丈夫大丈夫。ちょっと酸っぱいものが喉位までに来てるだけだから」
「それを世間一般では吐き気って言うんですけど」
隣で携帯を握り締めて唸っている彼を一瞥し、研磨はふうと軽く息を吐く。黒尾も、人並みに女子と交際をした事があった。初めて付き合った女子のメールアドレスを貰った時には、
『うえーい女の子から初めてメルアド貰っちゃったぁ~。
欲しいっつってもやらんからな~』
等と軽口を叩いていたのを研磨は覚えている。そんな彼がメール一つで一喜一憂する彼を、研磨は今まで見た事がなかった。
(それだけ、瀬戸が特別ってことか…)
研磨は携帯の画面を滑らせる指を止める。微笑ましさに似たもの覚え、口の端が僅かに上がる。