第6章 手に手をとって
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騒音にも似た人々の声と様々な足音が流れていく駅構内を、目を惹く赤い色を纏った集団が緩歩している。
その集団の最後尾付近を歩く鶏冠頭の少年は、しなやかな体躯と元来の高い身長、そして猫に似た鋭い切れ長の目の形と黒曜石のような瞳により、幾人かの女性達の視線の的となっていて一際目を惹いている。
しかし当の本人である彼は、その事を知ってか知らずか、彼女達に視線を投げ返すことは一切無かった。
いつもならば余裕を持った力強い瞳も、今は濃い憂いを帯びていた。足取りも心なしか覚束無い千鳥足の様に感じる。視線を向けている女性達の中の幾人かは、体調が優れないのだろうかと憂色を見せるが、隣を歩く金髪の少年は彼を一瞥し呆れの溜息を吐く。
ああ、こいつデレているな…、と。
金髪の少年、孤爪研磨からすれば、隣の少年───黒尾鉄朗の頭上にハートやらお花やらが飛んでいるように見えるのである。ぽーっと夢現のような表情で歩く黒尾を横目で見ながら研磨はそっと握り拳を作り、彼の横腹目掛けて突撃させる。
「ぁいたぁっ!?」
「どーしたんスか黒尾さんアサシンにやられたんスか?!」
「お前俺を何だと思ってんだ犬岡!!」
「恨みを買われるようなヤツだと思われてんだな黒尾…」
「夜久はその憐れむ様な目ぇやめろ!!」
悲痛の声を上げてよろめいた自分を、労わってるのか労わってないのか分からない反応をするチームメイトに対し、黒尾は遠慮無く噛み付いた。
おーこわーと言いながら会話に戻っていった夜久と、またアサシン出たらいつでも呼んでくださいね!と笑顔を向けた犬岡の背を黒尾はジト目で見詰める。
「ったく、俺をどんなヤツだと思ってやがんだよ…」
「…」
「で、研磨クンもどういうつもりなのかな?」
「何のこと?」
「ナチュラルにすっとぼけないでくれる?!人の脇腹攻撃しといて何なのかな君は!?」
「デレデレしながら歩いてる人と同じジャージ着て歩かなきゃいけないこっちの身にもなってくれない?ただでさえクロ目立つんだからさ」
「え、ああそれは悪かっ…ってデレデレってどういうこと?!俺変な顔して歩いてたの?!」